○自分に世界についての認識が生まれた瞬間を明確に覚えている。
真っ暗な視界がだんだん開けてきて、自分をくるんでいる毛布や、部屋に置かれているテレビが見えた。
昼寝の途中で目覚めたタイミングだったのか、それが見えた後はまた真っ暗な世界に戻っていった。
○暗闇が再び晴れると、自分は幼稚園の園庭の小高い山に立っていた。
幼稚園の建物や登り棒が見える。ふと、「自分の声は自分に聞こえるのか?」という疑問を私は抱いた。
あ、と声を出してみると、思ったより高い声が聞こえた。私は満足して、遊具に向かって走り出した。
○それ以前の記憶はない。真っ暗な世界の記憶があるわけではなく、ちょうど眠りから覚める時のように、暗闇が晴れていく記憶があるばかりである。
○死がどのようなものかは誰も知らない。しかし、私は「あの世」の存在よりも輪廻転生のようなものを信じがちである。
もし私が死んだら、あの暗闇を経て私はまたあの赤い毛布を見ることになるのではないか、という気がしている。