○『忍法帖』シリーズで知られる作家、山田風太郎が老齢の感慨や闘病の様子を記したエッセイ。
私がこの人の作品に興味を持ったきっかけは『戦中派不戦日記』で、『忍法帖』シリーズはほぼ未読。
『戦中派不戦日記』は戦中を医学生として過ごした著者の当時の日記を書籍化したもの。これはこれで面白いのだが、結構長いので読了はしていない。
文庫本より電子書籍で本を読むのが楽なので、電子版を書い直すべきかもしれない。
○身長、体重、そして好きな食べ物がわかればその人物の個性をありありと想起する手がかりとなる、というのが著者の持論である。
そこで正岡子規や夏目漱石、森鴎外、勝海舟といった人物の食卓の様子が記述されるのだが、詳しい献立の記録が残っている子規の食いっぷりがすさまじい。
病人にもかかわらず粥を二杯、焼いた鰯を18匹(!)、鰯の酢の物を平らげたそうである。この記録をして山田は「子規という人間の体臭、眼光、息づかいが
生き生きと感じられる」という。常人離れした量はともかくとして、短歌や俳句を革新した偉人であっても、我々と同じくものを食べていたのは確かだ。
○この本には山田風太郎自身の献立も載っている。一部を引用しよう。ちなみに彼の食事は朝夕の二回である。
昭和六十三年十二月四日(日)午前うすら日、午後曇り
【朝】前夜の煮物、ホーボーの味噌汁。
【夕】アップルパイ、牛と豚のショーガ焼き、ブリの照り焼き、朝鮮漬け、ウグイス菜の煮物。
十二月五日(月)晴れたり曇ったり
【朝】ウナギ茶漬け。
【夕】ミートソースのスパゲティ、干しがれい、昨夜の豚と牛のショーガ焼き残り、パンのガーリック・トースト、鯨汁、大根のタカ菜の刻み。
十二月六日(火)晴れ
【朝】そば屋にててんぷらそば。
【夕】鯛のかぶと煮、アップルパイ、卵焼きと牛肉のつくだ煮と鰯のみりん干しの盛り合わせ、煮大根、おにぎり。
それぞれの量は定かではないが(本人曰く少食だそうである)、品数としては相当多いのではないだろうか。
それでいてメニューが予告と変わったりすると怒り出したりしたというから、用意する家族も大変であったろう。
○献立というのは妙に見ていて楽しい。小学生の頃、毎月張り出される給食の献立をいつも楽しみにしていたものだが、そのことを無意識に思い出しているのかもしれない。
この本に影響を受けて、私も日々の献立を日記に記録するようになった。一部を以下に書いてみるが、私の人柄が伝わるだろうか?
2020年9月2日(水)
朝:マックグリドルソーセージ、アップルパイ、コーラ(朝マック)
昼:ハムサンド、ミルクティー
晩:アクアパッツァ、高菜、白飯
9月3日(木)
朝:食パン、コーヒー
昼:天丼
晩:ソーセージとローストビーフとポテトサラダの盛り合わせ、ハイボール(駅構内の飲み屋にて)
9月5日(土)
朝:なし
昼:刺身、サラダ、天ぷら、割子そば(蕎麦屋にて)
晩:しめ鯖、焼き茄子、茹で卵、高菜、白飯